岐阜地方裁判所大垣支部 昭和55年(ワ)61号 判決 1982年10月13日
原告 破産者菱冷工業株式会社 破産管財人 梅田林平
右訴訟代理人弁護士 二見敏夫
被告 大垣管材株式会社
右代表者代表取締役 五島己喜夫
右訴訟代理人弁護士 宮島栄祐
主文
一 被告は原告に対し金六万〇一五四円及びこれに対する昭和五五年八月二一日以降支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は五〇分し、その一を被告のその余を原告の各負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮りに執行できる。
事実
第一当事者の申立
一 請求の趣旨
1 被告は原告に対し金五六六万八九五二円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 菱冷工業株式会社(以下破産会社という)は、昭和五三年九月三〇日手形不渡を出して支払を停止し、同年一〇月六日債権者から破産の申立を受け、昭和五四年二月一五日岐阜地方裁判所大垣支部において破産宣告を受け、原告はその破産管財人に選任された。
《以下事実省略》
理由
一 請求原因について
1 請求原因1の事実、被告が破産会社の債権者委員長となって、破産会社の在庫商品等の売却や売掛金債権の取立をなし合計九〇四万二六九〇円を取得したこと並びに被告が破産会社の支払停止後破産会社に対する自己の債権について金七二万七一〇〇円の弁済を受けたことはいずれも当事者間に争いがない。
そして、右事実に《証拠省略》によると
(一) 破産会社は昭和五三年九月三〇日手形不渡を出して支払を停止したので、全債権者に通知して同年一〇月三日に破産会社に集まって貰って事情を説明した。そして同日債権者委員会が発足し、債権者の間で被告外九名が債権者委員に選ばれ、同月一二日に債権者集会が開催されることとなった。
(二) その間債権者委員の互選により被告は債権者委員長に選ばれ、同月一二日の債権者集会を主宰し、同集会では破産会社の経営内容、資産状態の説明、質疑が行われ、検討の結果破産会社を整理することとなり、破産会社はその資産、債権、債務の処理一切を債権者委員会に委ね、その旨の代理権授与の委任状を債権者委員会委員長である被告に交付した。
(三) その後まもなく、一債権者から破産会社に対し破産の申立がなされたことを破産会社及び被告らは知ったが、債権者委員会は破産手続が破産まで進むかどうかわからないと考え、破産会社の在庫商品等の資産の処分、売掛金債権の取立等の債権者委員会の事務を進め、合計九〇四万二六九〇円の金銭を取得し、そのうちから破産会社の負担すべき従業員の給料及び公租公課として金三三七万三七三八円を支払い、又債権者委員会における売掛金取立、調査費、事務費、債権者委員の車代、食事代等の諸費用として金一四四万九〇四〇円を支出した。
(四) そして、債権者委員会は右支払後の残額四一三万八二〇〇円を債権者に配当することとし、各債権者から債権の届出を受けて、破産会社の帳簿等により確認手続をなし、次いで債権の存在の確実性を考慮して手形債権については一・五パーセント、その他の債権については〇・七五パーセントと一律に配当率を決めて、各債権者の配当額を算出し、昭和五四年一月二二日開催の債権者委員会において右により配当を実施することを決定し、ただちに各債権者に配当金の支払をした。
(五) 被告は破産会社に対し手形債権四七六三万二四八〇円、その他の債権一六九万二二〇二円計四九三二万四六八二円を有していたが、右債権に対する前記割合による配当金として昭和五四年一月二二日に金七二万七一〇〇円の支払を受けた。
以上の事実が認められる。
2 そこで以上の認定事実に基いて検討する。
(一) 先ず被告の前記金九〇四万二六九〇円の取得をもって否認権の対象となる旨の主張についてみると、被告の右金銭の取得は破産会社の債権者委員会として且つ代理人として破産会社の資産、債権並びに債務の整理に関する行為に基づき取得したもので、その効果は破産会社に帰属するものであって、被告個人の債権に対する弁済又は自らの権利に属するものとして取得したものではないので、破産法七二条二号に該当しないから右主張は理由がない。なお債権者委員会が破産申立があった後もその活動を続け、配当まで実施したことが妥当ではないとしても、そのことの故に右金銭の取得をもって当然に否認権の対象となるということはできない。
(二) 次に破産会社は会社整理を目的としてその資産及び売掛金債権を被告に信託したものであり、右信託行為が否認権の対象となる旨の主張についてみると、債権者委員会ないしは被告が破産会社の資産、債権並びに債務の整理を委されたことが、仮りに信託行為であるとしても、前記認定のとおり債権者に公平にその債権の弁済を得させる目的でなされた行為であって、債権者を害する意図が認められないので、破産法七二条二号に該当しないと解せられるから、右主張は理由がない。
(三) 次に、被告が破産会社から自己の債権に対する配当金、経費等の名目で金二二五万七七五二円の弁済を受けたことが否認権の対象となる旨の主張についてみるに、被告が破産会社の支払停止又は破産の申立があった後に自己の債権に対する弁済として金七二万七一〇〇円の支払を受けたことは前記認定のとおりであるが、それ以上に原告主張のように経費等の名目で自己の債権に対する弁済として不当に金銭を受領したことを認めるに足りる証拠はない。もっとも、債権者委員会がその諸費用として金一四四万九〇四〇円を支出していることは前記認定のとおりであり、そして、前掲証拠によると、被告もその費用として債権者委員会から右金銭の中から一部受領していることが認められるが、債権者委員会の事務処理上必要な諸費用を受領することが許されるのは当然である。
従って、被告が受領した右金七二万七一〇〇円の限度において一応否認権の対象となり得るが、その余の部分については右主張は理由がない。
二 抗弁について
1 被告が破産会社の支払停止又は破産宣告の申立があった後に自己の債権に対する弁済として金七二万七一〇〇円の支払を受けたことは前記のとおりであるが、かように一応破産法七二条二号に該当する行為があっても、右行為が他の債権者との間で公平を害することがない特段の事情がある場合には右行為を否認し得ないものと解するのが相当である。
2 ところで、(一)破産会社の債権者委員会は届出た債権者に対し、債権の存在の確実性を考慮して手形債権については一・五パーセント、その他の債権については〇・七五パーセントと一律に配当率を定めて、この割合により配当を実施したこと、(二)被告は破産会社に対し手形債権四七六三万二四八〇円、その他の債権一六九万二二〇二円計四九三二万四六八二円を有していたが、右配当率による配当として前記金銭の支払を受けたことは前記認定のとおりである。
そして、《証拠省略》によると、債権者委員会では届出た一部の債権者については破産会社の反対債権による相殺等の理由で配当をしなかったが、その余の債権者にはすべて前記割合により配当をしたこと、右配当を受けなかった債権者で破産手続に債権届をした者はないこと、債権者委員会に対する届出債権者以外の債権者で破産手続に債権の届出をした者はないこと、又相当数の債権者について債権者委員会の認めた債権額よりも破産手続の確定債権額の方が少し高額となっていることがそれぞれ認められる。
3 以上の各事実からすると債権に対する配当の割合に差を設けた点は後述するとして、債権者委員会は破産会社に対する届出の債権者のうち相殺等の理由で一部配当をしなかった債権者を除いてすべての債権者に一律の割合で配当をなし、右債権者以外の債権者で破産手続に届出た債権者はなく、又右配当を受けなかった債権者で破産手続に届出た債権者もないのであるから、債権者委員会は破産会社の全債権者に対し一律に配当を実施したことになる。なお、前記のとおり債権者委員会の認めた債権額より破産手続の確定債権額に差があることはその額が少額であることから後者については利息を算入した届出によるものと推測されるが、その額が少額であるから、債権者委員会のなした配当をもって債権者間の公平を害するということはできない。
次に、手形債権とその他の債権との間に配当の割合に差を設けた点について検討すると、債権者委員会は債権の存在の確実性の点から右の差を設けたのであるが、破産手続との関係においては、債権の存在の確実性の点は債権額の確定の問題であって、手形債権は他の債権に対し優先権を有するものでなく、平等の割合で配当を受けるのであるから、債権者委員会のなした手形債権に対する配当は債権者の平等を害するものといわなければならない。
4 そこで、《証拠省略》によると、債権者委員会は届出債権者の手形債権計二億四七一五万六〇一五円とその他の債権計五七九〇万四八五二円総計三億〇五〇六万〇八六七円に対し計四一二万四九〇〇円の配当をなしたことが認められるから、結局右総債権額について右配当額を平等に配当したとすると被告の前記債権額金四九三二万四六八二円に対しては金六六万六九四六円が配当されることになる。従って、被告が右債権額に対する配当として支払を受けた前記金七二万七一〇〇円との差額金六万〇一五四円について被告は債権者の平等の弁済に反して支払を受けたものといわなければならない。従って、右金七二万七一〇〇円の中右金六万〇一五四円について被告の抗弁は理由がなく、同金額は否認の対象となり、その余の部分について抗弁は理由があることとなる。
三 よって、原告の請求は被告に対し金六万〇一五四円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和五五年八月二一日(本件記録上明らかである)以降支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 林輝)